「audio-technica」が1996年に発売した『ATH-W10VTG』で飛騨高山産ミズメ桜無垢材を採用して以来、伝統的に続く“ウッドモデル”シリーズ。その中でもフラグシップ機に用いられてきたのが「黒檀」です。2019年11月に発売された密閉型ヘッドホン『ATH-AWKT』は、ハウジングにその黒檀(インドネシア産)が使用されています。

またドライバーには、2005年12月発売の『ATH-W5000』で採用されたドイツ製パーメンジュール磁気回路や6NOFCボビン巻きボイスコイルを使用したドライバーを、さらにブラッシュアップして採用。イヤーパッドには本革のシープスキンが使われています。

色々とレビューを読んでみると、購入前の印象はこんな感じでした。

audio-technicaの伝統的な音。旧来の弱点を克服し、進化した。低音はしっかりと鳴るが出しゃばらない。中音・高音は空間的な広がりがあり、表現力が豊か。そのままでも魅力的な音だが、曲調と相性の良い機器を組み合わせると、さらに理想的な音を引き出す。クラシカルな曲調にフィットしやすいが、機器の選び方次第で現代的な曲調でも能力を発揮できる。

なんとなく自分の好みに合致しそうですが、センシティブで扱いきれない気がする。なので、『ATH-AWKT』は見送って、同時発売された『ATH-AWAS』を以前に購入しました。

しかし、やはり『ATH-AWKT』が気になる‥‥。オーディオ環境をかなり強化したので、今ならいけるはず?

その『ATH-AWKT』が「NTT-X Store」で通常価格217,800円のところ、ナイトセール(20時~8時)限定で158,000円の大幅値引き!

まぁ、それでも約16万円もするのでなかなか手が出なかったのですが、ようやく購入資金のめどがついたので、思い切ってポチりました。

付属品は、2種類のケーブルとマニュアル2冊です。

  • 6.3mmステレオ標準プラグのアンバランスケーブル(3m)
  • XLR(4pin)コネクターのバランスケーブル(3m)
  • ユーザーマニュアル
  • 取扱注意ガイド

4.4mm(5極)バランス接続ケーブルは付属しないので、別途用意する必要があります。

フラグシップ機というだけあって、パッケージはとんでもなく厳重でした。

外側から順に、段ボール箱→ビニール袋→スリーブ→ボックス→ボックス(発泡スチロールで宙に浮くように固定)→ビニール袋→木箱(布内張)、という具合。

段ボールには『ATH-AWKT』を示すラベルが貼られています。MADE IN JAPAN。正体不明の英数字が並んでいますが、「1951」はたぶんシリアルナンバー。

スリーブ裏側には多言語による記述があります。貼られているラベルを見ると、2019年12月に製造されたようです。ここにもシリアルナンバーと思われる「1951」の記載があります。

木箱の素材は何だろう。ただ高級感を演出するためだけに木箱にしたわけではなく、内部の湿度を一定に保つために木材を選んだのではないかと予想。

内側は高級感のある布張りになっています。

黒檀の杢目は、左は平行に整っていて、右は少し遊び心がある感じです。深みがあってすごく良い。

写真を撮ったときの光の具合で左右で色合いが微妙に違ってしまいましたが、実物は同じ色合いです。白い点は部屋の中の埃がついてしまったもので、傷や汚れではありません。

装着感は『ATH-AWAS』と同じような感じ。耳の下辺りに隙間があるような感触がありますが、装着して時間が経つにつれ、イヤーパッドが顔の輪郭にじわ~っと馴染んでいきます。

外音遮断性はそれほど高くなく、テレビの音などはくぐもった状態で聞こえます。

ここからは音のレビューをしてみたいと思います。

環境は、『パソコン(foobar2000 WASAPI排他)』→USBケーブル(エイム電子 UA3-R010)→『TEAC UD-505-B』→4.4mm5極バランスケーブル(Brise Audio MIKUMARI)→『ATH-AWKT』。

まず感じるのは、音の解像感が高く、ひとつひとつの音の輪郭が鮮明なこと。しかも、細かな音がクリアに聞こえるというだけでなく、伸びのある音や波打つ音もぼやけたり滲んだりすることなく描写されています。それは、曲の情景をとても鮮やかに表現することを可能にしています。

社外ケーブルを使っている影響もあるのでしょうが、同じケーブルを使っても本機と同時発売の『ATH-AWAS』よりさらにクリアなので、『ATH-AWKT』の個性だと思います。

音が耳に刺さるように感じることもありますが、性能の限界で音が直線的になって刺さるのではなく、『ATH-AWKT』の場合は、音がもともと持っている鋭さを再現した結果としての鋭さであるように感じます。実際、高い音ならば何でも刺さるわけではなく、抜けがよい音はきれいに抜けます。

では、モニターライクな音なのかと言うとそうでもありません。性能にまかせて音を分解すればするほど一体感が損なわれますが、『ATH-AWKT』では曲のまとまり感がしっかりとあります。高い表現力で情感豊かに奏でるあたりは、リスニング系のヘッドホンと言えると思います。

つまりは、音をクリアに鳴らしながらも、曲としての一体感を損なわない音作りがされています。このバランス感覚が、このヘッドホンのすごいところだと思います。

しかし、これだけポテンシャルが高いと、ヘッドホンに入ってくる音の質も問われます。粗い音はその粗さが、雑音があれば雑音が、そのまま聞こえてしまいます。環境しだいで音の良し悪しがあからさまに変わるでしょう。

このあたりはやはりセンシティブだと思います。

音のバランスはaudio-technicaらしい傾向で、きらびやかな高音と、控えめの低音が特徴です。特に低音は、音圧が腹に響くような重低音ではないので、それを求める方には物足りないと思います。

だからといって『ATH-AWKT』の低音がダメなのかというと、それは違うと思います。

無音からぐぐっと立ち上がってくる感じであるとか、深みに沈んでいくような感じ、短く締まった感じ、不気味で怪しげな感じなど、音の表情がよく表現されています。「我こそが主役」と言わんばかりに最前面に出てくることはないですが、曲の中で与えられた役割をしっかりと果たしていると思います。

目立つのは高音です。しかしそれはキンキンと耳障りなこととは違います。鋭かったり、華やかだったり、冷たかったり、弾けるようだったり、伸びやかだったりと、こちらもまた音の表情が豊かです。中でも、きらびやかさの表現が素晴らしいと思います。きらきらと光が舞うような眩しさがあります。

その高音に並び立つのが中音。たしかに目立つのは高音で、器楽曲ではそれが顕著に表れるのですが、他方で、ボーカル曲ではボーカルがしっかりと押し出されていて、高音に負けることはありません。

低音が伴奏し、高音と中音が曲調に合わせて主役を入れ替わりながら踊る、そんなイメージでしょうか。

音のキレも、音の伸びも、どちらも良好です。また、クラシックとかポップスとか、ジャンルによる得手・不得手はなさそうです。

それよりも、曲の主役が高音なのか低音なのか、ということの方が重要で、低音をメインにする曲ではやや物足りなくなる一方、高音や中音を押し出している曲ではその魅力を存分に引き出せるでしょう。

全体をまとめると『ATH-AWKT』は、色々書いたとおりに、癖が強いヘッドホンです。だからと言って、機器の組み合わせで癖を矯正しようとすると、結果的に何の特徴も無い、つまらない音になってしまうでしょう。

癖に逆らわず『ATH-AWKT』の美点であるきらびやかな高音を活かすようにして使うと、魅力的な音楽を楽しませてくれると思います。